2019.07.03
ブログ
株式と家族信託
こんばんは!副代表の加古です。
今日も、「家族信託」についてご説明します。
いままでの家族信託に関するブログはこちら。
今日は、事業承継対策としても有効な民事信託の活用法について実際のご相談事例を踏まえてご説明します。
<相談内容>
私は現在75歳で不動産仲介会社を経営しており、株式も100%所有しております。 長男が後継者として会社に入っていますので、 来年には長男に経営者として代表取締役に就いてもらい、株式の議決権も渡すべく、株式譲渡をしていきたいと考えています。 顧問税理士の先生に色々相談していますが、会社の業績が良いため株価が高く、株式の譲渡がスムーズにいきそうにありません。 また私自身、最近体調がすぐれず、仮に認知症になったり、持病等が悪化して意思能力が低下してしまった場合、株主総会の決議等はどうなってしまうのでしょうか。
今後スムーズに事業の承継を進めていくためには、どのように進めたらいいのかとても不安です。
<問題点>
①次期社長の経営権の安定を確保すべく、会社の株式を譲渡しようにも株価が高いと資金調達と課税の問題をクリアしないといけません。
株式の譲渡方法は、「売買」や「贈与」が考えられますが、1株の株価を基に売買代金や贈与価格を算定します。
株価が高いとそれに応じた購入資金の確保(融資を受けるにしても、負債が残る)の問題や、譲渡人の現社長に対しての多額の譲渡所得税が課されるリスク、生前贈与の場合には長男に多額な贈与税がかかる可能性があります。
つまり、株価が高いと、後継者へ一度に株式を譲渡するのは現実には難しい場合も多く、少しずつ譲渡し続けるしかありません。
②現社長(父親)が今後体調を崩して意思能力がなくなってしまった場合、100%の株式を持っている父親の議決権は凍結してしまい、会社運営に必要な議決権の行使が不可能になり、会社運営に関してのリスクが高まります。
〇問題の解決方法
<民事信託の利用>
現社長を「委託者兼当初受益者」、後継者の長男を「受託者」、信託財産を当該会社の株式および株式管理に必要と思わる部分とする信託契約を締結します。また、現社長が御逝去された時には信託契約を終了するものとします。この場合には、株式は現社長のご相続人が原則相続しますが、信託契約の内容として、信託終了時の帰属権利者を長男としておけば、遺言の効力と同様の効果を生じさせることも可能です。
委託者と受益者が現社長、名義(議決権の行使権者)だけ受託者である後継者たる長男とする信託契約としているため、株価が高くとも、贈与税や譲渡所得税などはかかりません。
民事信託を利用することで、信託契約で決められた目的に従い、受託者である後継者の長男の判断で議決権を行使することが可能になります。
また、現社長の父親がしっかりしたうちに議決権を、長男へ託すことが出来るので、仮に父親の意思能力がなくなってしまった場合であっても、長男の判断で議決権を行使することが可能となります。
その他の利点として、
①株式の民事信託手続には、不動産のように登記手続きの必要がないので、手続き自体は複雑ではありません。
②信託開始後は、株式の議決権が長男に移動するので、長男が株主総会において議決権を行使します。
⇒仮に委託者である父親が認知症やご病気で意思能力が低下したとしても、長男が代わりに株主総会で決議が可能となる。
③配当等がある場合、現社長(父親)は従前どおり配当を受けることができます。
④万が一、後継者たる長男が経営者に適していないため、別の者を後継者にしたい、又は先に死亡するなどの理由で株式を元の状態に戻したい場合には、信託契約を解除するだけで、特に課税されることもなく、現状に復帰することができます。
最後に、こちらの株式信託はあくまで一つの手法ですので、ケースによっては受益者連続型信託、事業承継税制の活用等、他の手段を検討した方がいい場合もございます。
株式の事業承継のことでお悩みの方は、是非一度ご相談下さい。